遺言(予備的遺言と保険金受取人の変更)

 

ご質問

   私の母は、7年前に亡くなりました。相続人は、私のみです。

 私(A)には妻がいますが、私と妻との間には子どもがいません。

妻の両親はすでに他界していますが、妻には兄が1人います。妻と義兄との関係はあまり良くありません。

 ところで、私は、生命保険を掛けており、私が死亡したときには、妻が私の死亡保険金を受け取ることになっています。

 私が妻よりも先に死亡した場合は妻が遺言を残しておけば良いのですが、妻の方が私よりも先に死亡して、保険金受取人を妻のまま変更していない間に私が死亡した場合や、私と妻が同時に死亡したような場合には、義兄が妻の相続人として私の死亡保険金を受け取ることになると聞きました。妻は、「兄には保険金を受け取らせたくない」と言っています。

義兄が保険金を受け取る事態を防ぐにはどうしたらよいでしょうか。

 

解説

 Aさんよりも先に奥さんが死亡した場合に、Aさんがすぐに保険金受取人を他の人に変更する手続を取れば、奥さんのお兄さんが保険金を受け取ることはありません。

 問題は、奥さんが死亡した後、すぐにAさんが死亡したり、Aさんが認知症になっていたりして、Aさんが保険金の受取人の変更手続をできない場合があり得るということです。

 このような場合には、Aさんの死亡保険金の受取人はAさんの奥さんのままであり、その奥さんはすでに死亡していますので、奥さんが受け取るべきAさんの死亡保険金は、奥さんのお兄さんが奥さんの相続人として受け取ることになってしまいます。

 このような事態を避けるために、Aさんがあらかじめ遺言を作成して、遺言で、「Aさんの妻が、Aさんよりも先に死亡した場合や同時に死亡した場合には、死亡保険金の受取人を妻から他の人(例えば、Aさん自身の妹さんや甥御さんなど)に変更する。」などと定めておくことが考えられます。

 このような遺言は、Aさんが死亡したときに奥さんがご存命である場合には適用されず、奥さんがAさんよりも先に死亡した場合やAさんと同時に死亡した場合に備えて作成された予備的な遺言といえます。

 遺言によって保険金受取人を変更することができることについては、平成22年4月1日に施行された保険法の条文で明らかにされました。それまでは、遺言によって保険金受取人を変更できるかどうかについては議論がありました。

 もっとも、遺言による保険金受取人の変更については、注意すべき点が2点あります。

まず、第1の注意点として、保険会社はAさんの遺言の存在を知りませんので、奥さんが先に死亡している場合に、奥さんのお兄さんから保険会社に対してAさんの保険金の請求があった場合、保険会社が奥さんのお兄さんに保険金を支払ってしまう可能性があります。

 このような事態を想定して、保険法では、遺言による保険金受取人の変更は、その遺言の効力が生じた後、保険会社に対し遺言による保険金受取人の変更を通知しておかなければ、後から、保険会社に対して遺言のとおり保険金を支払うべきであった等と主張することはできないとされています。

 そのため、遺言では、Aさんの遺言の内容を実現する遺言執行者(いごんしっこうしゃ)を定めたうえで、Aさんよりも先に奥さんが死亡しているような場合には、Aさんが死亡した後直ちに、遺言執行者において保険会社に対し保険金受取人の変更を通知する、としておく必要があります。

 第2の注意点として、保険法が施行された平成22年4月1日以前に締結された生命保険契約については、遺言による保険金受取人変更についての保険法の規定が適用されませんので、個別に保険会社に問い合わせて、遺言による保険金受取人の変更に対応してもらえるかどうかを確認しておく必要があります。

 遺言の具体的な書き方については、専門家にご相談ください。

 

 

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